最高裁判所第二小法廷 昭和40年(行ツ)12号 判決 1970年10月23日
上告人(原告・控訴人) 阿南主税
被上告人(被告・被控訴人) 東京都大田税務事務所長
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由第一点について。
論旨は、地方税法七三条の二第一項にいう「不動産の取得」とは、特定人にあらたに不動産が増加することを意味するもので、その取得原因のいかんは問わないが、取得の結果あらたに不動産という財産形態の資産が増加していなければ、右の「不動産の取得」に該当せず、本件のように不動産を等価で交換した場合は、ただ不動産の交替があるのみで、あらたな不動産の増加を伴わないから、「不動産の取得」にあたらないものと解すべきであり、かく解するのでなければ租税賦課の公平が期せられないものと主張する。
しかし、地方税法七三条の二にいう「不動産の取得」とは、他に特段の規定がない以上、不動産所有権の取得を意味するものと解するのが相当であり、その取得が認められる以上、取得原因のいかんを問わないものと解すべきである。不動産取得税は、右の意味における「不動産の取得」という事実を捉えて課税されるもので、地方税法の関係規定によつても、所論のように、取得の結果不動産(資産)の増加をきたす場合のみが同項にいう「不動産の取得」にあたるものと解すべき理由は見出だせない。また、交換の場合には、交換当事者の双方が不動産を取得するのであるから、両当事者がともに課税されるのは当然であり、また、その取得につきすでに課税を受けた甲不動産を他人所有の乙不動産と等価で交換した場合に、乙不動産の取得につき再度課税されるのは、右の甲不動産を時価で売却した代金によつて乙不動産を購入した場合に、その取得につき再度課税を受けるのと同様、当然であつて、なんら租税賦課の公平に反するところはない。
論旨は採用できない。
同第二点について。
論旨は、原判決に租税法律主義に反する違法があると主張するが、不動産を等価交換によつて取得した場合も、地方税法七三条の二第一項にいう「不動産の取得」にあたるものと解すべきことは、第一点について説示したとおりであり、論旨は、これと異なる見解を前提として原判決を攻撃するもので、採用のかぎりでない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)
上告人の上告理由
第一点原判決は地方税法第七三条の二の規定の解釈を誤った違法がある。
原判決によれば、地方税法第七三条の二(以下単に法という)にいわゆる「不動産の取得」の意義については、同法にはその定義を定めた規定がなく、また通常の用語と異なる意味において使用されているものと解さなければならない根拠もないから、同法の「不動産の取得」なる字句は通常の意味に従って「不動産所有権の取得」の意味に解するのが相当であると判示しているが、判示は通常の意味を誤まっている。即ち国民に対し、一方的に金銭的負担を命ずる租税法規の用語は、かような法律的な権利関係から規定されたものでなく、実質的に担税力の客体としての財産価値の増加という経済上の用語によって規定されていると解すべきであるから、同法を解釈する通常の用語は、経済的用語によらなければならないのは当然である。而して経済上不動産の取得とは、特定人に新たに不動産が増加することで、勿論その取得原因の如何は問わないが、取得原因の結果新たに不動産という財産形態の資産が増加していなければ、不動産の取得という字句に該当した事実はない。即ち本件のように不動産を等価において交換した場合の如きは、唯不動産の交替があっただけで、新たな不動産の増加を伴わない。既に取得していた不動産の内容の変更があっただけで当事者双方に、新たに不動産が増加した事実はないから、不動産の取得ではないと解すべきである。(等価交換でない場合は当事者の一方に不動産の取得があることは勿論である)
法第七三条の二の「不動産の取得」の意義をかように解さなければ租税賦課の公平は期し得られない。何となれば、本件の場合は、当事者双方において、交換の対象となった不動産を取得したとき、已に不動産取得税を賦課しているから、原判決のように不動産の取得という意義を、不動産の所有権の取得という意義に解すれば、当事者双方に同税を賦課することになり、同税の賦課が一般には、当事者の一方のみに賦課される場合に比し、不公平であるばかりでなく、交換当事者としては前述のように交換の対象となった不動産を取得したとき同税を賦課され、更らに交換によって賦課されることになり、交換当事者に対しては重複して同税を負担する不公平を生ずる結果となるのは、原判決が不動産の取得の意義を同法制定の立法意義に解しておらない何よりの証左である。
第二点<省略>